2023.06.28
不動産の売却
土地家屋調査士とは?具体的な業務内容や基本情報を解説
「土地家屋調査士」という言葉を聞いたことがある人もいらっしゃると思いますが、具体的な仕事内容について知らない人も多くいらっしゃいます。
なんとなく「不動産に関する業務を行っている専門家なのかな」という程度に考えている人も多いと思いますが、実は、不動産登記に関して非常に重要な業務を行っています。
この記事では、土地家屋調査士の具体的な業務内容や基本情報について解説していきます。
土地家屋調査士についてよく分からないという人は、この記事を参考にして、不動産登記と土地家屋調査士の関わりについて理解しましょう。
土地家屋調査士とは?
土地家屋調査士とは、土地や建物に関する知識を持つ専門家で、おもに不動産登記における重要な役割を果たす国家資格を持つ人のことを言います。
土地や建物の表示登記や筆界特定、測量や調査、登記書類の作成や代理申請などが、土地家屋調査士の主な業務です。
不動産の取引には、土地や建物の正確な情報が必要となります。土地家屋調査士が、土地や建物の所在地や面積、建物の構造や利用目的などを正確に調査し、登記簿に登録することで、信頼できる情報をもとに不動産取引ができるようになります。
特に土地においては、「どこからどこまでが自分の敷地なのか」を明確にする筆界特定が大切ですが、隣接する土地の所有者とよくトラブルになることがあります。
そんな時に、土地家屋調査士に正確な調査をしてもらい、筆界をはっきりさせてもらえます。土地家屋調査士には法的な知識や測量技術、地図の解釈能力などが求められます。
登記法や不動産関連の法規制に精通し、専門的な知識とスキルを駆使して、さまざまな業務を行います。さらに、お客様や関係者との円滑なコミュニケーションや折衝能力も重要です。
土地家屋調査士の存在は不動産取引の信頼性と透明性を高める一翼を担っています。土地家屋調査士は不動産の専門家として、私たちの生活やビジネスにおいて欠かせない存在です。
土地家屋調査士の基本情報
土地家屋調査士は、「土地家屋調査士」の国家資格を取得した人が名乗れる専門職です。資格を取得するためには、土地家屋調査士試験に合格しなければなりません。
試験問題は、不動産関係の法律に関する問題や、測量に関する問題が出題されます。学歴は関係ありませんが、法学や建築系の学部で学んだ人は有利です。
なお、測量士、測量士補、一・二級建築士の資格を持っている人は、試験の内容が一部免除されます。資格取得後は、個人事務所に勤務して土地家屋調査士としての経験を積む人もいれば、独立開業する人もいます。
土地家屋調査士の年収は400万円〜500万円程度で、独立開業されている人の中には1,000万円を超える人もいるようです。今後も、高齢化に伴う世代交代や、不動産の相続や売却などが増えてくる可能性もあることから、将来性のある仕事であると言えます。
不動産登記の専門家
土地家屋調査士は、「不動産登記の専門家」と言われています。なぜなら、土地家屋調査士は不動産を正確に登記するための重要な役割を担っているからです。
土地の敷地面積や境界の位置、建物の床面積等を正確に登記することは、不動産取引の信頼性を確保する上で非常に大切なことです。土地家屋調査士は、土地や建物に関する調査や測量を通じて、不動産の境界や特性を明確に把握していきます。
この作業を通じて、不動産の正確な情報を登記簿に記載できるようになるのです。土地家屋調査士は、登記簿の表題部に必要な項目を正確かつ適切に記載するために、調査結果や測量データを基に、登記に必要な書類を作成します。
そのほか、必要な証明書の取得や、登記申請の代行も行います。土地家屋調査士の存在は、不動産登記の円滑な手続きと、登記情報の正確性の維持に貢献しています。信頼性の高い不動産取引を行っていくためには、土地家屋調査士の役割は欠かせません。
表示に関する登記を行える
土地家屋調査士は、不動産登記の中でも「表示」に関する部分の登記が行なえます。「表示」とは、不動産の物理的な情報のことで、物件の所在地、面積などの情報のことを言います。
土地家屋調査士は現地調査や測量を通じて、土地の正確な面積を測定したり、物件の形状や階数などを調査したりして、物件の正確な情報を登記簿に反映させます。ちなみに、登記には「表示」のほかに、「権利」に関する情報も必要です。
「権利」とは、不動産の所有者が誰なのか、いつ不動産を取得したのか、抵当権はついているのかといった、権利関係の情報のことを言い、こちらは司法書士が登記を行なえます。
土地家屋調査士の難易度
土地家屋調査士の難易度は非常に高いです。令和4年度の土地家屋調査士試験は、受験者数4,404人に対して、合格者は424人、合格率は9.6%となっており、非常に難易度が高いことがわかります。
参考:法務省ホームページー「令和4年度土地家屋調査士試験の最終結果について」
試験の難易度が高い理由はいくつかありますが、択一式以外にも、求積、作図、申請書作成などの記述式の問題が出題されるという点が大きいです。
試験は午前の部と午後の部に分けて実施されますが、特に午前の部に行われる「土地及び家屋調査の調査及び測量に関する知識及び技能」に関する試験の難易度が高いです。
この午前の部の試験は、前述した、測量士、測量士補、一・二級建築士の資格を持っている人は免除されます。そのため、あえて測量士補を取得してから土地家屋調査士の試験を受ける人も多いです。
土地家屋調査士にできることと業務内容
土地家屋調査士は、不動産登記の専門家として、主に下記の業務ができます。
・不動産調査
・表示に関連する登記の代理申請
・表示に関連する審査請求手続きの代理
・筆界特定の代理
・民間紛争解決手続の代理
それぞれの業務について、順番に詳しく解説していきます。
不動産調査
土地家屋調査士は、登記を目的とした不動産調査を行います。不動産調査は、下記の流れで行われます。
・資料調査・資料収集
・現況測量
・図面作成
・境界立会い
・確定測量
【資料調査・資料収集】
まず、法務局や役所を訪問して、測量に必要な資料を収集します。
測量しようとしている土地や建物の情報に関する資料は、役所や法務局で管理されているため、必要に応じて、その資料を取りに行きます。
資料としては、土地家屋の「登記事項要約書」や「公図」などが必要となります。登記事項要約書には、土地や建物をどんな方が所有しているのか、土地の面積や、建物の構造、階数や床面積などの情報が記載されています。
公図には、その土地の位置や形状、地番が記載されています。
【現況測量】
登記事項要約書や公図を取得したら、実際に現場へ行って「現況測量」を行います。
現況測量とは、土地や建物の現状を大まかに把握するための測量のことを言います。
ブロック塀や電柱、境界標の状況、土地の面積や形状などを測量していきます。
【図面作成】
現況測量が終わったら、測量結果をもとに図面を作成します。
図面には、土地の形状のほか、付近にあったものや、目印となるものを図面に落とし込みます。
図面作成には、CADなどの図面作成専用ソフトを使いながら、測量してきたありとあらゆるデータを細かく図面に反映させていきます。
【境界立会い】
図面作成が終わったら、「境界立会い」を行います。
境界立会いとは、測量した土地の「お隣りさん」に対して、「あなたの土地の境界はここです」と確認していただき、了承を得ることを言います。
この境界立会いはとても重要で、お隣さんたちから「境界について了承しました」という署名・捺印をいただかないと、登記申請そのものができません。
なお、この境界立会い業務は「土地家屋調査士資格者にしかできない独占業務」となっています。そして、隣地にはとてもさまざまな人がいるため、非常に難易度の高い業務でもあります。
土地家屋調査士には、測量といった専門技術だけでなく、お客様や隣地の方とのコミュニケーション能力も求められる職業であるといえます。
【確定測量】
境界立会い業務が終わったら、「確定測量」に移ります。確定測量とは、その名のとおり「境界を確定させる測量」のことを言います。
この確定測量で得られたデータが、関係各署に正式に提出するデータとなります。
確定測量をしておかないと、土地を売却する時に、買主や隣地所有者と、境界について揉めることがあるため、境界を明確にすることはとても重要です。
確定測量では、厳密さや正確さが求められます。例えば、首都圏などでは、土地が1ミリ・1センチずれるだけで、本来の価格から何百万円もずれてしまうケースもあるからです。
表示に関連する登記の代理申請
土地家屋調査士は、前述の不動産調査の結果をもとに、表示に関する登記の代理申請を行います。法務局へ表示に関する登記申請をすると、これまで調査してきた土地や建物の境界が正式に確定されます。
登記申請は、境界立会いと同様、表示に関する登記の代理申請は、土地家屋調査士の独占業務となっています。登記申請は自分の名前が一生残るので、やりがいや達成感が感じられますが、同時に責任感も求められます。
不動産登記には、この表示に関する登記と、権利に関する登記がありますが、権利に関する登記は任意であるのに対して、表示に関する登記は必ず行わなければならないこととなっています。
表示に関する登記が必要となるケースには、以下のようなケースがあります。
【土地の場合】
・土地の地目が変わった場合(農地→宅地など)
・分筆や合筆をした場合
・登記上の土地の面積が実測と異なっているため修正する場合
【建物の場合】
・建物を新築したり、建売住宅を購入した場合
・建物を増築したり改築した場合
・建物を取り壊した場合
表示に関連する審査請求手続の代理
土地家屋調査士は、不動産の表示登記に関連する審査請求手続きの代理業務ができます。
審査請求とは、不動産の表示に関する登記について、登記官が行った処分が不当だと感じた人が、その登記官の管轄エリアの法務局長に対して行う不服申立てのことを言います。
審査請求の目的は、登記官が行った処分そのものに対して不服申立てするものなので、「登記の内容が間違っている」ことを主張するものではありません。
例えば、まれに「隣地との境界が明確でない」などの理由で、登記が却下されてしまうことがあります。この場合は、登記官に対して審査請求ができます。
筆界特定の代理
土地家屋調査士は筆界特定の代理業務ができます。「筆界」とは、土地が登記された際に、その土地の範囲を区画するものとして定められた線のことです。
筆界特定は、新たに筆界を決めるのではなく、もともとあった筆界を、実地調査や測量などで明らかにすることです。筆界の特定には、筆界特定調査官が外部専門家である「筆界調査委員」の意見を踏まえて、筆界の位置を特定していきます。
この筆界調査委員は、土地家屋調査士のほかに弁護士や司法書士などの中から、法務局または地方法務局の長が任命します。
なお、似た言葉として「境界」という言い方が使われますが、境界については、筆界を意味することもあれば、「所有権の範囲を画する線」という意味で使われることもあります。
民間紛争解決手続の代理
土地家屋調査士は、民間紛争解決手続の代理業務ができます。これは、土地の筆界が明らかになっていないことを原因とする民事に関する紛争解決のための手続きを代理で行うことができるものです。
すべての土地家屋調査士ができるわけではなく、法務大臣が「民間紛争解決手続代理関係業務を行うのに必要な能力を有する」と認定した土地家屋調査士(ADR土地家屋調査士)に限り、弁護士との共同受任を条件として業務ができます。
参考:日本土地家屋調査士会連合会ー「土地家屋調査士について」
民間紛争解決手続に関する相談は、全国50か所にある「境界問題相談センター(ADRセンター)」で相談できます(土地家屋調査士会が運営)。
土地家屋調査士|まとめ
以上、土地家屋調査士の具体的な業務内容や基本情報について詳しく解説しました。
土地家屋調査士は、土地や建物に関する表示登記、筆界特定などの業務を行う、国家資格を持つ専門家です。
不動産登記に関する法律的な知識を持っているだけでなく、測量などのフィールドワークのほか、お客様や隣地の方との折衝などの業務もあるため、知識のほかに体力・コミュニケーション力が求められる仕事でもあります。
多様な能力が求められる仕事ですが、この記事で紹介したような土地家屋調査士の業務によって、私達は正確で信頼性のある不動産登記情報を使えるのです。
土地家屋調査士は不動産の専門家として、私達の生活において、不動産取引や土地利用に関する重要な意思決定のサポートをしてくれる重要な存在であると言えるでしょう。