2022.11.30
不動産の売却
完全網羅!不動産売却初心者のための基礎講座
ライフステージの変化や転勤、相続などさまざまな理由により不動産を手放したいと考えた際、最初に思い浮かぶのが「売却」という方法です。
多くの人にとって、不動産取引は馴染みのないものであるだけでなく、取引金額も大きいため、「失敗したらどうしよう」という不安を抱きやすいものです。そうした不安から、なかなか一歩踏み出せない、という人もいるのではないでしょうか。
しかし自宅の売却は、全体の流れや費用、売却後の確定申告など、ある程度全体像を把握しておくだけでも、スムーズかつ納得のいく条件で売却することが可能なのです。
本記事では、不動産を売却するために知っておきたい基礎知識を、下記の項目に沿って徹底的に解説します。
- 不動産を売却する方法
- 不動産売却の流れ
- 不動産売却にかかる費用
- 不動産売却にかかる税金と確定申告
- 不動産売却を成功させるためのポイント
不動産売買の全体像を知って、不動産売却の不安を払拭しましょう。
1.不動産を売却する方法
不要になった不動産を売却する場合、大きく分けて2つの方法が考えられます。
1つは不動産会社で買主を探す方法、もう1つが不動産会社に買い取ってもらう方法です。
1)不動産売却は不動産会社に依頼するのが一般的
不動産の売却を検討し始めたら、まずは不動産会社に依頼して、買主を探してもらうのが一般的な方法です。
不動産売買における不動産会社の役割は多岐にわたります。売買物件の査定から始まり、買主を探すための広告作成、売主と買主間の契約条件のすり合わせ、契約手続き、引き渡しと、場合によっては引き渡し後のアフターフォローも行います。
2)個人間の不動産売却は避けたほうがいい
親族間や友人間で、直接建物や土地の取引をしたというような話を聞いたことがある人もいるかもしれません。個人間の取引は法律上認められていますが、トラブル回避の観点からはあまりおすすめしません。
不動産売買は取引金額が多いぶん、契約内容を細かく決めておかないと大きなトラブルに発展する可能性が高いことが、一番の理由として挙げられます。
また、契約書類の作成や必要書類の取り寄せなど、煩雑な作業も多いため、プロである不動産会社に任せたほうが、スムーズかつ確実に進められるのです。
3)買い手が見つからなければ「買取」という方法も
不動産会社に依頼しても、なかなか買い手が見つからず、何ヶ月も売れ残ってしまう可能性があります。そうした場合には、買取専門の不動産業者に依頼して、買い取ってもらうという選択肢もあります。
買取専門の不動産会社は、買い取った土地や建物に手を加えて、活用したり再販したりすることで利益を得るビジネスモデルの業者です。査定結果に納得すればすぐに買い取ってもらえるため、通常の売買よりも早く現金化できる点がメリットですが、市場相場よりも安い下取り価格での買取になるという点には注意が必要です。
2.不動産売却の流れ
それでは、実際に不動産会社に依頼して不動産売却を進める場合、どのような流れで行われるのかを見ていきましょう。
1)不動産売却の相談・査定
最初に行うのは、不動産会社に売却の相談をし、査定により売却予定額を出してもらうことです。
土地や建物の状態以外にも、権利関係や周辺環境などさまざまな要素を考慮して、その不動産を売りに出したときにいくらで売れそうかを算出します。
不動産売却の相談は、すでに売却を決めている人だけでなく、「高く売れそうなら売りたい」といった人も無料で受けられます。査定結果をもとに、売却金額やスケジュール、住宅ローンの相談などもしていきます。
2)媒介契約
相談の結果、仲介を依頼したい不動産会社が決まったら、不動産会社と売主との間で「媒介契約」を締結します。
媒介契約の3つの種類があり、それぞれの特徴は下記のとおりです。
専属専任媒介契約 | 専任媒介契約 | 一般媒介契約 | |
同時に契約できる業者の数 | 1社 | 1社 | 複数社可 |
購入希望者との直接取引 | 不可 | 可 | 可 |
契約有効期間 | 3ヶ月以内 | 3ヶ月以内 | 定めなし
(3ヶ月以内とするのが一般的) |
不動産流通システム(レインズ)への登録 | 媒介契約締結から5日営業日以内 | 媒介契約締結から7営業日以内 | 任意 |
売主への報告義務 | 1週間に一度 | 2週間に一度 | なし |
専属専任媒介の場合は、同時に媒介契約を結べる不動産会社の数は1社のみ、さらに売主自身が探してきた購入希望者との直接取引(不動産会社を介さずに売却すること)が禁止されています。つまり、「完全に不動産会社に任せる」タイプの媒介契約です。
それに対して一般媒介契約の場合は、一度に複数の不動産会社と契約でき、売主自身で購入希望者を見つけた場合は、直接取引することも可能です。売主にとっての自由度が高い反面、不動産会社は売りに対して売却活動の進捗報告の義務がなく、売却活動をどの程度活発に行うかは、不動産会社にゆだねられるという側面もあるということを知っておきましょう。
3)売却活動
媒介契約を締結したら、不動産会社による売却活動が始まります。
不動産ポータルサイトへの掲載や広告作成、購入する不動産を探している人に対しての提案など、さまざまな手段や角度から、買主が見つかるように情報発信を行います。
問い合わせがあった際には、実際に現地に案内したり、購入希望者の希望条件のヒアリングを行ったりするのも不動産会社の役目です。
4)購入申し込み~売買契約締結
購入希望者から購入申込書を受領したら、売主との間で契約条件の調整を行います。売却価格や引き渡しの条件・スケジュールをすり合わせ、お互い合意に至った時点で、売買契約を締結します。
不動産会社に不動産売却を依頼する場合は、不動産会社が契約書類を作成します。売主は売却する不動産に関する資料や、売主自身に関する書類を準備する必要があるため、あらかじめ不動産会社に問い合わせておくと安心です。
売買契約の際には、売買金額の一部を「手付金」として買主から売主に対して支払います。
5)残代金決算・引渡し
契約締結時に受け取った代金の残りの売買金額を受け取ることを「残代金決算」と呼びます。契約書で定めた引き渡し時に残代金決算を行い、同時に物件の鍵が売主から買主に渡ります。これで売買契約は完了です。
6)確定申告
不動産の売主は、翌年の確定申告で、売却によって得られた売却益についての申告を行う必要があります。確定申告が必要なケースと準備する書類については、後ほど詳しく解説します。
3.不動産売却にかかる費用
不動産売却では、売主側にも多くの費用が発生します。売買される物件の取引金額によっては高額になる費用もあるため、売却活動を始める前に把握しておくようにしましょう。
1)不動産売却時にかかる費用一覧
売却する不動産の種類や条件、利用する不動産会社にもよりますが、不動産売却時には下記の費用がかかるのが一般的です。
仲介手数料 | 不動産会社に支払う手数料 |
登記費用 | 抵当権抹消にかかる費用(登録免許税)や司法書士への報酬など |
印紙代 | 売買契約書に貼る収入印紙代(印紙税) |
その他諸費用 | ・土地測量
・建物の解体費 ・廃棄物処分費 ・ルームクリーニング代 等 |
上記以外にも、現在居住している住居を売却する場合には、引っ越し費用が必要になるほか、返済中の住宅ローンがある場合は、住宅ローン完済のための返済金と手数料の支払も発生します。
2)仲介手数料の上限と相場
不動産会社に支払う仲介手数料の金額は、宅地建物取引業法により計算方法と上限が定められています。
売買価格 | 計算式 |
200万円以下の部分 | 売買価格×5%+消費税 |
200万円超~400万円以下の部分 | 売買価格×4%+2万円+消費税 |
400万円を超える部分 | 売買価格の3%+6万円+消費税 |
上記の計算方法は、宅地建物取引業法が定める計算式を、実際の不動産売買の現場で計算しやすいように改めた「速算式」と呼ばれるものです。売買金額を3つに分け、それぞれの部分について計算し、最終的に合算した金額が、一度の不動産売買で、仲介業者が一方の依頼主から受け取れる手数料の上限金額です。
なお、上記の計算式で算出される仲介手数料は、あくまでも上限金額であるため、不動産会社に必ず支払わなくてはならない金額ではありません。交渉次第で減額してもらえる場合や、不動産会社によっては最初から「仲介手数料半額(または無料)」としている場合もあります。
4.不動産売却に関する税金と確定申告
不動産売却に関する税金には、売却手続きの際にかかるものと、売却によって利益が発生した場合にかかるものがあります。
売却手続きに必要な税金 | ・印紙税
・登録免許税 |
売却益が発生したときに納める税金 | ・譲渡所得税
・復興特別所得税 |
なかでも「譲渡所得税」は、取引金額によっては百万円単位で発生することもあり、確定申告の対象となるため、必ず理解しておかなくてはなりません。
1)譲渡所得税とは
不動産を売却した際に、出た利益に対して所得税や住民税が課せられます。これらの不動産の譲渡(売却)にかかる税金を総称して「譲渡所得税」といいます。
2)譲渡取得税の計算方法
譲渡所得税の税額は、下記の計算式によって求められます。
・譲渡所得税額=(譲渡所得-特別控除額)×税率
・譲渡所得=譲渡収入金額(不動産の売却金額) -取得費(不動産を購入したときにかかった費用) +譲渡費用(売却時にかかった費用) |
上記の計算式を見てわかるとおり、譲渡所得税は譲渡所得がプラスになった場合のみ発生します。
つまり、土地や建物を売却して売却金額を得た場合でも、購入時や売却時にかかった費用と相殺した結果、譲渡所得がマイナスになっていた場合には、譲渡取得税はかからないということです。
譲渡所得税額を算出するために用いる税率は、居住用不動産の場合で下記の表のとおりです。
所得区分 | 所有期間 | 税率* |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63%
所得税:30.63% 住民税:9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%
所得税:15.315% 住民税:5% |
10年超所有軽減税率の特例 | 1)課税譲渡所得6,000万円以下の部分
14.21% 所得税:10.21% 住民税:4% 2)課税所得6,000万円超の部分 20.315% 所得税:15.315% 住民税:5% |
*復興特別所得税(2.1%相当)含む
(参照:国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問)No.1440譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm)
3)確定申告の時期と必要書類
不動産売却で譲渡所得が発生した場合、不動産を売却した翌年2月16日から3月15日までの間に、税務署に申告・納付する形で申告します。
確定申告時に提出・添付する書類は、下記に一覧としてまとめました。
・売却時の売買契約書や領収書
・登記事項証明書 ・譲渡所得の内訳書(土地・建物用) ・確定申告書B ・申告書第三表(分離課税用) |
確定申告は期限内に行わないと、「無申告加算税」や「延滞税」といった、追加納税のペナルティが発生するため注意が必要です。
なお、譲渡所得がマイナスの場合は、原則として確定申告の必要はありません。ただし、同じ時期に売買した複数の不動産を損益通算したり、売買時に適用される特例を利用したりしたい場合は、譲渡所得がマイナスになっていても確定申告が必要です。
4)不動産売却時に利用できる特例
2022年11月現在、マイホームを売却した際に得られる譲渡所得に対して、さまざまな特例が用意されています。利用するのとしないのとでは納める税額が大きく変わってくるほか、譲渡所得がマイナスになった場合に活用できるものもあるため、適用期限も含めて必ず確認しておきましょう。
譲渡所得に適用可能な特例 | 概要 |
マイホーム売却時の3,000万円特別控除の特例 | 譲渡所得から最高3,000万円控除可能 |
マイホームを売った時の軽減税率の特例 | 10年以上居住したマイホームを売却した場合に、軽減税率を適用 |
特定のマイホームを買い換えたときの特例
※2023年12月31日譲渡分まで |
一定の要件を満たしたマイホームを買い替えた際に生じた譲渡所得を、将来に繰り延べできる特例 |
マイホーム買い替え時の譲渡損失の特例
※2023年12月31日譲渡分まで |
一定の要件を満たしたマイホームを買い替えた際に生じた損失を、ほかの所得と損益通算・損失を3年間繰り越せる特例 |
それぞれの特例に関する詳しい適用要件については、下記を参照してください。
マイホームを売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm マイホームを売った時の軽減税率の特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm 特定のマイホームを買い換えたときの特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm マイホーム買い替え時の譲渡損失の特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3370.htm |
5.不動産売却を成功させるためのポイント
不動産の売却は多くの人が初めての経験のため、なかなか満足のいく取引を実現するのが難しい側面があります。
不動産をより高く、満足のいく条件で売却するためには、意識したいポイントはいくつもありますが、ここでは特に押さえておきたい3つのポイントに絞って解説します。
1)売却前に相場を調べておく
不動産の売却価格を設定する際、類似した物件がどれくらいの価格で取引されているかという「相場」を知っておく必要があります。
相場からかけ離れた価格に設定してしまうと、高すぎてなかなか買い手が見つからなかったり、逆に安く買いたたかれて損をしてしまったりする可能性があることが理由です。
また、購入申込書を受領してから契約締結までの間に、購入希望者から値下げ交渉をされるというのは、不動産売買においてはよくあることです。周辺相場を知っていることで、購入希望者から値下げを要求された場合でも、対等に交渉できる可能性が高まります。
2)複数の不動産会社を比較する
不動産売却は、仲介を依頼する不動産会社を選ぶところからスタートするということは、すでに解説したとおりですが、査定は複数の不動産会社に依頼し、比較したうえで決定するようにします。
理由は、不動産会社によって査定基準が異なるためです。
不動産の査定基準には明確な定めがなく、不動産会社がそれぞれ持つデータや過去の取引実績から、「自社であればこのくらいの価格で売れるはず」という金額を算出します。
複数の不動産会社に査定依頼をすれば、どの業者が売買を得意としているか、その地域に精通しているかがわかり、スムーズに売却できる業者を見つけることが可能になります。
3)繁忙期に売却する
賃貸マンションや賃貸アパートは、引っ越しシーズンといわれる2〜3月が繁忙期ということは、ご存じの人も多いのではないでしょうか。これは不動産売買にも当てはまることで、繁忙期に売り出させるようにスケジュールを組むことにより、希望条件で売却できる可能性が高まります。
繁忙期に売却するのがおすすめである理由は、新生活に向けて住居を求める人が多いためです。
住居を求めている人が多いということは、ほかの時期と比較して、ある程度高めの価格設定をしても売却できる可能性が高いということです。逆に7〜8月は転居する人が少ない閑散期で、この時期に売り出しても希望の価格で売れない傾向にあります。
ただし、不動産を査定してもらって売却活動がスタートするまで2週間程度かかるほか、売り出し始めてから売却が決まるまでには、平均で3〜6ヶ月程度かかると言われています。
繁忙期に売却活動をするためには、これらの期間を逆算して動き始める必要があるということは覚えておきましょう。
不動産売却の成功のカギは不動産会社選びにあり
不動産の売却のためには、査定・価格決定・売却活動・契約交渉・契約締結・役所の手続きや確定申告と、さまざまなステップを踏む必要があり、1人ですべてこなすのは難しいのが現実です。
特に住み替えや相続などが理由で自宅を売却する場合、売却手続き以外にも、住み替え先を決めたり、住宅ローンの返済や借り換えのことを考えたりしなくてはいけないケースも。
そうした不動産や住宅資金に関しての不安を払拭しながら、納得のいく不動産売却を実現するためには、不動産売買の実績があり、売買以外の相談にも親身になってくれる不動産会社を選ぶことが大切です。