2022.07.07
不動産の購入
不動産売買契約書とはどんな書類?契約時の注意点について解説
「不動産売買契約書」は、建物や土地、マンション・アパートといった不動産を売買する際に発行・締結する書類です。
契約書の条文では、対象となる不動産の情報や売買代金、設備・備品の状態だけでなく、引き渡し後に瑕疵(欠陥)が見つかった場合の責任についてや、住宅ローンを利用して購入する場合の特約などが定められます。
不動産の売買取引の際は、ほとんどの場合で不動産会社に仲介を依頼します。不動産売買契約書の作成も不動産会社が行い、契約の締結時には契約書の内容について説明を受けます。しかし、不動産売買契約書の内容は複雑なため、契約時にすべてを理解することは困難です。そのため、契約締結前にあらかじめ担当者から契約書のドラフトをもらい、内容を確認することが大切です。不明点や不明瞭な部分があった場合は、必ず事前に不動産会社に質問・確認するようにしましょう。
不動産売買契約書の作成は義務ではありません。口約束でも契約締結とみなされるため、個人間売買の場合は不動産売買契約書を作成しないケースもあります。しかしながら、不動産売買契約書を作成しないと「権利義務が不明瞭」「契約内容の証拠が残らない」というリスクがあります。そのため、個人間売買の場合でも原則として不動産売買契約書は作成するようにし、自分で作ることが難しい場合は、不動産会社に契約書の作成だけ依頼するなどの方法をとるようにしましょう。
1.不動産売買契約書とはどのような書類?
不動産を購入する際に発行される「不動産売買契約書」とは、どのような意味を持つ書類で、どうして発行する必要があるかについて解説します。
1)不動産売買契約書とは?
「不動産売買契約書」は、不動産の売買取引を行ううえで、売主と買主の間で取り決める約束事や、取引される不動産に関する合意内容についてまとめた契約書です。売主と買主の間で、不動産の状態や売買の条件について、認識の相違がないかを確認するだけでなく、契約後に発生するトラブルを未然に防ぐためにも大切な書類です。
2)不動産売買契約書を作成する理由
不動産売買契約書を締結する主な目的は「権利義務を明確にする」ということです。
不動産における「権利義務」とは、契約を締結することにより、売主と買主のそれぞれにどのような権利が生まれ、どのような義務を負う必要があるのかを明確化したものです。
具体的には、売主には「売買代金の受け取り」という権利と「不動産を引き渡す」という義務が、買主には「不動産を受け取る」という権利と「売買代金を支払う」という義務が発生します。
さらに、不動産を引き渡す際に発生する費用は誰が負担するのか、引き渡した不動産に何か問題があった場合はどうするのか、といった内容を、事細かに取り決めます。これらについては、後に詳しく解説します。
3)不動産売買契約書と土地契約書の違い
不動産の売買契約を締結する際に、「不動産売買契約書」のほかに「土地売買契約書」という契約書を目にしたことがある人もいるかもしれません。不動産売買契約書と土地売買契約書の違いは、契約の対象が「建物と土地」か「土地のみ」かという点にあります。
「不動産売買契約書」を締結するのは、建物と土地を合わせて売買する場合。例えばマンションを購入する場合は「不動産売買契約書」を締結します。マンションには対象となる一室だけでなく、マンションが建っている土地を使用する権利もついてくるためです。
一方で「土地売買契約書」は、土地のみを売買する場合に使用します。マイホームを建てるためや、資材置き場・駐車場などとして使用するために土地を購入する場合が、こちらに該当します。
4)不動産売買契約書は不動産会社が作成する
不動産売買取引を行う場合、不動産会社に仲介を依頼するケースと、不動産会社を介さず個人間で取引を行うケースの2つのパターンが考えられます。
不動産売買においては取引金額が大きく、さらに複雑な法律が絡み合っていることから、一般的には不動産会社が仲介して締結まで進むことがほとんどです。その場合は仲介に入る不動産会社が、売主と買主の間で契約内容の調整やとりまとめを行い、不動産売買契約書を作成したうえで、契約内容の説明・締結・引き渡しまでを行います。
一方で、個人間で不動産の売買を行う場合は、当事者同士が協議しながら自分たちで不動産売買契約書を作成したり、契約書の作成だけを不動産会社に依頼するケースもあります。
2.不動産売買契約書に記載されている内容
不動産売買契約書に記載される内容は多岐にわたるため、初めて見る人にとっては難解に映ります。そのため、あらかじめ基本項目として記載される内容と、特に注意して確認すべきポイントをあらかじめ押さえておくことで、後のトラブル回避につながります。
1)不動産売買契約書 基本項目
全国宅地建物取引士協会が公開している不動産売買契約書の雛形においては、下記の項目が基本項目として記載されています。
・売買物件の表示 ・売買代金、手付金等の額、支払日 ・所有権の移転と引き渡し ・公租公課の清算 ・反社会的勢力の排除 ・ローン特約 ・負担の削除(抹消) ・付帯設備等の引き渡し ・手付解除の期限 ・引き渡し前の物件の滅失および毀損 ・契約違反による解除 ・契約不適合責任 |
上記以外にも、必要に応じて「特約事項」を設定する場合もあります。
2)不動産売買契約書で特に注意して見たいポイント
不動産売買契約時には、不動産会社の担当者から契約内容の説明を受けます。しかし不動産売買契約書に盛り込まれる内容は非常に多く、契約時にすべて理解することは難しいと言えます。
そのため、契約締結前にはあらかじめ不動産会社から不動産売買契約書のドラフトをもらい、契約内容に誤りがないか、不明確な部分や理解できない部分がないかを確認しておくことが大切です。
ここからは記載内容の多い不動産売買契約書の中でも、後のトラブルを回避するために、特に入念に確認しておきたいポイントについて解説します。
(1)売買物件の表示
購入する不動産についての情報が正しく記載されているかを確認します。
不動産の表示内容は、具体的には下記のような項目です。
・建物や土地の所在地 ・地目(土地の用途) ・地積(土地の面積) ・持分(所有権の割合) ・家屋番号(不動産登記上の番号) ・種類(居宅、店舗、事務所など) ・構造 ・床面積 |
マンションを購入する場合は、建物自体の詳細情報や、マンションが建っている土地に関する詳細情報も記載されています。
(2)売買代金、手付金等の額、支払日
金額や支払期日に確認が必要なのは、主に下記の項目です。
・売買代金の総額 ・建物代金 ・土地代金 ・手付金 ・中間金 ・残代金 |
売主と買主の間で特別な取り決めがない場合は、手付金は多くの場合で「解約手付」として扱われます。「解約手付」とは、契約時に売主に対して買主が支払うもの。何らかの理由で契約締結から契約の履行までの間に、契約解除を余儀なくされた場合、売主は手付金の倍額を買主に返すこと、買主は手付金を放棄することで、不動産売買契約を解除できます。
手付金は契約解除に備えるために預けるものなので、売買代金とは別に扱われます。しかし一方で、契約の調整から契約までがスムーズに進んだ場合は、売買代金に含めると契約書で定めるケースもあります。その場合は不動産の引き渡し時に、売買代金全体から手付金を差し引いた金額が売主に渡ることになります。
不動産売買契約書上では手付金の金額や支払いの方法の他、手付金の放棄による契約解除の期限についても定められます。契約解除を見据えて不動産を購入する人はいませんが、「他に条件のいい不動産が見つかった」などの理由で購入を断念する人も少なからずいます。
万が一に備えて、手付解除できる期日を必ず確認しておくようにしましょう。
(3)ローン特約
住宅ローンを利用して不動産を購入する場合は、万が一ローンが通らなかった場合の対応について定めた「ローン特約」の内容を必ず把握しておきましょう。
住宅ローンは、不動産売買売買契約を締結後に本審査が開始されるため、場合によっては「契約を締結したのに融資を受けられない」というケースも考えられます。その場合、住宅ローン特約で定められていれば、融資が下りなかったことを理由に契約を白紙にすることも可能になります。
(4)付帯設備等の引き渡し
建物を売買する場合は、設備や備品の状態・引き渡しの有無についても確認が必要です。例えばマンションを購入する際、内覧の時にはエアコンがついていて「売買代金に含まれる」と説明を受けていたにもかかわらず、いざ引き渡しを受けるとエアコンがなかったということもあります。
設備・備品の有無だけでなく、故障していないか、現状での引き渡しになるかどうかも確認しておきましょう。
(5)引き渡し前の物件の滅失および毀損(危険負担)
取引の対象である不動産が災害などによって被害を受けた場合を想定して、その損害を売主と買主のどちらが負担するかをあらかじめ決めておきます。この損害の負担は「危険負担」と呼ばれ、一般的には売主側に定められます。
(6)契約不適合責任
「契約不適合責任」とは、不動産を引き渡した後に見つかった瑕疵(欠陥)に対して、売主に一定期間課せられる責任のことです。以前は「瑕疵担保責任保険」と呼ばれていましたが、2020年4月の民法改正により名称が変更されました。
買主は不動産の引き渡しを受けた後に瑕疵を知った場合、瑕疵を知ってから1年以内に売主に内容を通知する必要があるとされています。この期限については不動産売買契約書上で、期間の短縮や延長ができるという点を押さえておきましょう。
3)不明点は不動産会社に質問
不動産会社に仲介を依頼する場合、不動産会社には契約締結時に契約内容の最終的な確認と意思確認のための説明義務があります。その際に「重要事項説明書」と呼ばれる、契約書の重要な部分を抜粋した書類が発行されます。契約締結時には、不動産売買契約書と重要事項説明書との間に内容の齟齬がないか、必ず確認するようにしましょう。不明点や不安点がある場合はそのままにせず、不動産会社の宅地建物取引士に質問・確認することで、思い込みや確認不足によるトラブルを防げます。
3.個人間売買の場合でも不動産売買契約書は必要?
すでに触れたように、不動産売買において不動産売買契約書は締結義務がありません。つまり、法律上では口約束でも「契約は成立した」とみなされます。しかしながら、たとえ親族や友人との間で行う売買であっても、不動産売買契約書は作成・締結したほうがいいと言えます。
1)不動産売買契約書を作成しないリスク
不動産売買取引において、不動産売買契約書を作成・締結しないことで考えられるリスクは大きく分けて2つ。1つは「権利義務が不明瞭になる」こと、もう1つは「契約の証拠が残らない」ことです。
・権利義務が不明瞭になる
既に解説したとおり、不動産売買契約書を作成する目的は「権利義務を明確にする」ということにあります。
不動産売買契約書があれば、どのような状態の不動産が、どれほどの金額で取引され、どのような状態で引き渡され、引き渡し後にどのような責任が発生するかについて明確に定めることができます。一方で、契約書が締結されないと、すべてが口約束による不明瞭な取り決めとなってしまい、あとになって「言った言わない」の問題が発生する可能性があるのです。
不動産の売買取引は、想像以上に細かい取り決めが多く、売主と買主それぞれで行う手続きも煩雑です。そのため、不動産売買契約書を発行して権利・義務・責任の境界線を明確に定めておくことが大切なのです。
・契約の証拠が残らない
不動産売買契約書を作成・締結することで、売主と買主が約束した内容とその証拠を保管できます。裏を返すと、不動産売買契約書を締結しないと、証拠が残らないということになります。
不動産売買は不動産を引き渡して終わりではなく、引き渡し後に問題が発生したり、何年も経った後に瑕疵が発覚したりするケースも少なくありません。そのようなトラブルが発生して裁判に発展した場合に、不動産売買契約書がないと事実を立証できなくなってしまうのです。
こうした万が一に備えるという意味でも、不動産売買契約書は必ず作成するようにしましょう。
2)作成する際は不動産会社に依頼
不動産売買契約書は、個人間売買の場合は売主と買主の双方が協力して、契約内容を協議しながら作成することもできます。その場合は全国宅地建物取引業協会のホームページにアクセスし、契約書の雛形をダウンロードして使用するといいでしょう。
しかし可能であれば、不動産会社に依頼して不動産売買契約書を作成してもらったほうが安心です。不動産売買契約書は複雑な条文が多く、不動産の専門的な知識がない人が作った場合、本来条文に加えるべき重要な特約が漏れてしまったり、取り決めが不明瞭になってしまう可能性が高いのです。
不動産会社が売主と買主の間で契約調整をする「仲介」を行う場合は、対象の不動産の取引金額に応じた仲介手数料が発生し、その金額は何十万円・何百万円に及ぶこともあります。一方で不動産売買契約書の作成だけであれば、数万円で請け負っている不動産会社もあります。
不動産売買を個人間のみで完結させるのは、多くの時間と労力が必要となります。また、専門家の力を借りることで、後々のトラブルを未然に防ぐことにもつながるため、不動産会社を上手に利用するようにしましょう。
まとめ
不動産売買契約書は、売主と買主との間で、売買契約の条件や合意内容を証拠として残すための重要な書類です。
多くの人が不動産売買が初めてで、分厚い不動産売買契約書に対して抵抗を感じることがほとんどです。しかしながら、不動産売買契約書上で「万が一」に備えた細かな取り決めをしておくことで、売主と買主との間で起こるトラブルを防げたり、トラブルが起こっても最小限の費用や労力で解決に導くことが可能になります。
不動産会社が仲介をする場合は、不動産会社が作成する契約書にしっかりと目を通すようにし、個人間売買の場合でも不動産会社に依頼するなどして、契約書を作成・締結しておくことが大切です。