2022.10.31
土地の購入
生産緑地の2022年問題はどうなっているの?生産緑地の売却まで徹底解説!!
生産緑地は都市部の農地を守るために市町村から指定された農地です。
都市部の農地としての役割を果たす代わりに、税金の節税ができる制度として多くの人が利用しています。
生産緑地には生産緑地が解除できる期日が設定されており、生産緑地のほとんどが2022年に解除できるようになってしまっています。
一時期ニュースにもなった生産緑地の2022年問題です。
しかし、最近ではまったく話題に登らなくなりましたが、果たしてこの問題はどうなったのでしょうか。
本記事では、生産緑地とは何か、2022年問題とは何か、生産緑地を売却するときにはどうしたら良いのかなど生産緑地にまつわることを徹底解説していきます。
生産緑地とは
生産緑地とは、1992年の生産緑地法に基づき指定された市街化区域内の農地のことです。
市街化区域は市街化を促進する地域のことなので、都市部の農地ということになります。
生産緑地を設定する目的は、都市部の農地を確保することにより食料自給、環境保全を守ることを目的としています。
生産緑地に指定されると固定資産税の大幅な減税を受けることができたり、相続税の納税猶予が受けられたりします。
また、生産緑地に指定されるには以下の条件が必要となります。
・農業や林業、漁業などの生産活動が行われていること、または公園などの公共施設用地に適していること
・面積が 500㎡以上であること(森林や水路、池沼などが含まれてもよい)
・農業や林業、漁業の継続が可能であること(日照などの条件が営農に適しているなど)
・農地の所有者そのほかの関係権利者が全員、生産緑地指定に同意していること
生産緑地2022年問題とは
生産緑地には期間があり30年を経過する年になると、生産緑地を解除することができます。
1992年の生産緑地法改正で申請された生産緑地が多いため、30年を経過した2022年に生産緑地が一斉に解除できるようになります。
この一斉に解除されてしまう問題のことを2022年問題と呼ぶようになりました。
それでは一体なぜこれが問題と言われているのでしょうか。
生産緑地は令和3年12月31日現在、58,315地区、11,967haもの面積が日本国内で指定されています。
1haは10,000㎡、東京ドームでいうと約2,562個というとんでもない面積の生産緑地が指定されているわけです。
このとんでもない面積の生産緑地の大半が2022年に解除可能であり、一斉に生産緑地が解除され、かなりの売り地が出ることになってしまうとの予測がありました。
不動産価格は需要と供給のバランスで価格がついているという面があり、生産緑地が解除され供給過多になると土地の相場が崩れてしまいます。
この土地相場の崩れを懸念したのが、生産緑地の2022年問題です。
生産緑地2022年問題は現在どうなっているのか
生産緑地の2022年問題と一時期騒がれましたが、その後はあまり報道されていません。
その理由は、結局、生産緑地の2022年問題と騒いだものの、生産緑地を2022年に解除する人が多くなかったことです。
生産緑地を解除しなかったのには理由がありますが、解除されなかった一番の理由は生産緑地を解除すると相続税猶予が受けられなくなるという理由です。
ほとんどの生産緑地所有者は相続税猶予を行っており、猶予された税金が生産緑地解除に伴い課税されます。
生産緑地の所有者は猶予された税金を納税できないため、引き続き生産緑地を続けるしかないわけです。
そのほかにも生産緑地法が改正されたことも生産緑地が解除されない要因として挙げられます。
生産緑地法が改正されたことにより、生産緑地で生産した農産物を販売する店舗や農産物を提供する販売店やレストランを設置できるようになりました。
また、生産緑地を10年継続することができるようになる、特定生産緑地制度も設けられました。
このことにより、生産緑地を維持し引き続き営農することを選択をした人も多くいます。
生産緑地のまま売却できる?
生産緑地のまま売却できる可能性は極めて低いと言わざるを得ません。
生産緑地の場合、農業を続けることが条件となりますが、都市部で営農をしたいという人はほとんどいません。
そのため、生産緑地のままでは買い手が見つからず、売却ができないということになります。
通常、生産緑地を売却するときには、生産緑地を解除してから売却するのが一般的な方法です。
生産緑地の解除方法
生産緑地を売却するときには、生産緑地を解除してから売却するのが一般的です。
しかし、生産緑地を解除するにはさまざまな要件や手続きが必要となります。
ここからは生産緑地を解除するための要件や手続きを紹介していきます。
生産緑地を解除するための要件
生産緑地を解除するためには、次のような要件を満たす必要があります。
・生産緑地に指定されてから30年が経過すること
・病気や体調などにより農業ができないこと
・生産緑地の所有者が死亡し相続人が農業を行わないこと
これらの要件のうちどれか1つにでも該当した場合、生産緑地を解除する手続きに入ることができます。
これらの要件は、各市町村により内容が定められているため、病気や体調の程度によっては生産緑地解除を許可する市町村と許可しない市町村など対応の違いが出る場合があります。
生産緑地を解除する手続き
前述した要件を満たすことにより生産緑地を解除する手続きに入ることができます。
ここからは生産緑地を解除するために必要な手続きについて紹介していきます。
市町村へ生産緑地の買取申請を提出
生産緑地の解除要件を満たしていてもすぐに解除できるわけではありません。
生産緑地の解除の手続きとして、まず生産緑地を市町村が買い取るのか買い取らないのかを判断してもらう必要があります。
・生産緑地の買取申請をするときに必要な書類は、次のとおりです。
・生産緑地買取申出書
・印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
・土地登記簿謄本
・公図
・生産緑地買取申出地の位置図および区域図
・農業従事者証明
・同意書(申出地で所有権や所有権以外の権利を持つ人全員の同意を取得)
・医師による診断書(病気や体調で農業ができなくなったという証明書)
これらの書類を提出し市町村が生産緑地を買い取るのかどうかの判断を待ちます。
市町村の生産緑地買取検討
市町村は生産緑地の買取申請があった場合、市町村で生産緑地を買い取りするのか約1ヶ月程度審査をします。
この審査の結果、市町村が買い取らないという判断をした場合、生産緑地所有者に買取審査に関する通知を発送します。
市町村が買い取るという判断をした場合は、市町村と買取金額調整の打ち合わせを行い、買い取りで話を進めていきます。
市町村が買い取りをしないと判断した場合、買い取りをしないと判断した日から約2ヶ月間、市町村は農林水産業の人に生産緑地を購入しないかと斡旋を行います。
市町村が斡旋をしても農林水産業の購入者が現れない場合、ようやく生産緑地が解除されます。
生産緑地を市町村が買い取ることは稀で、買取申請に対して買い取りを申し出るた割合は1%~2%と言われています。
そして、農林水産業の人への斡旋も成立することはほとんどありません。
農林水産業の人への提示額は、宅地見込額のためです。
都市部の現況農地になっている場所を宅地見込み額で購入し、農林水産業を行っても利益が出る可能性は低く購入するメリットがないためです。
なお、宅地への転用や住宅建築などは生産緑地が解除されるまで行うことはできません。
市町村の買取判断待ちのときや、市町村が農林水産業の人へ斡旋しているときには、まだ宅地への転用などはできないことに注意が必要です。
生産緑地を解除するときの注意点
生産緑地を解除するときには、さまざまな注意点があります。
ここからは、生産緑地を解除するときに注意しなければならないことを紹介していきます。
相続税猶予がなくなる
生産緑地を解除することにより、相続税猶予がなくなります。
相続税猶予がなくなった場合、猶予されていた相続税に加え利子税も支払う必要があります。
利子税とは付帯税の一種で、納税する期日までに納税できず納税延長や納税猶予を受けたときに、納税するまでの期間に対して課税される税金です。
納税を猶予した場合、猶予期間が長ければ長いほど利子税が多く課税されていくということです。
利子税が課税される代わりに、延滞税は課税されません。
なお、利子税は相続税の申告期限の翌日から納税猶予の期限までの期間(日数)に応じ、年3.6%の割合により課税されます。
生産緑地を解除した場合、猶予されていた相続税と利子税を支払う必要がありますが、相続税猶予を行い十数年経過するだけで1,000万円近くの税額になることもあります。
そのため、生産緑地を解除する前には必ず、相続税と利子税を合計した金額がいくらになるか税理士などに確認したうえで生産緑地を解除する手続きに入るようにしなければなりません。
なお、生産緑地で終身営農する場合、相続税が免除されるケースもあります。
相続税が免除される条件に当てはまっているのかも、税理士に確認しておくと良いでしょう。
固定資産税が高くなる
生産緑地の状態だと都心部にあったとしても農地課税評価がされており、固定資産税額がかなり抑えられています。
しかし、生産緑地を解除することにより農地課税評価が宅地並み課税となります。
元々面積が500㎡以上しか生産緑地にできなかった(生産緑地法改正前)ため、生産緑地の面積は広く、広い土地の課税評価が上がってしまうと課税額もかなり上がってしまいます。
生産緑地を解除だけして、土地を保有し続ける場合には固定資産税がどの程度の納税額になるか確認しておきましょう。
生産緑地を解除すると再度生産緑地になることができない
生産緑地は一度解除してしまうと、再度生産緑地指定を受けることができません。
一度解除した生産緑地を再度生産緑地にしたいというケースは少ないと思いますが、再度生産緑地指定はできないことも知っておくに越したことはありません。
生産緑地をすべて購入してくれるのは不動産会社がほとんど
生産緑地法改正前に指定された生産緑地は、面積が500㎡以上あります。
500㎡以上もある広い面積の土地を一般購入者が購入することは予算上難しいため、生産緑地の購入者のほとんどが不動産会社になります。
不動産会社が土地を買い取るということは再販売目的になるため、相場よりも安い金額になることが多くなります。
そのため、生産緑地を売却した後、手元に残る金額を計算するときには、通常の土地相場より安くなるという見込みで手取額を少なく計算したほうが良いでしょう。
まとめ
生産緑地は、都心部の農地を守る目的で創設された制度です。
都市部にある農地を生産緑地にすることにより、固定資産税の軽減、相続税の猶予などを受けることができます。
しかし、税金の優遇を受けられる代わりに、生産緑地では営農を続けるという条件が付きます。
また、生産緑地を解除するには厳しい条件が課されます。
そして、生産緑地を解除する条件を満たしていたとしても、相続税を猶予していた場合には、猶予していた相続税と利子税を納税する必要があります。
生産緑地を解除するときにはまず不動産仲介会社に問い合わせ、生産緑地を解除できる条件を満たしているか確認します。
そして、生産緑地解除の条件を満たしていることが確認できたら、次に税理士などに猶予した相続税と利子税がどれくらい課税されるのか確認します。
この両方の確認が終了したら、市町村へ生産緑地解除のため生産緑地の買取申請をします。
生産緑地は慎重に取り扱わないと後悔することが多い不動産です。
専門家にきちんと相談し、納税額などがはっきりしてから生産緑地解除の手続きをとっていくようにしましょう。